※ニッツ君が消えた後の話
リヤン☞ニヒル☞☜ニッツ
「姫は、猫みたいだね」
小窓に映る雨雫を眺めて、ぼんやりとリヤンは呟いた。
こいつはいつも俺のことを“姫”とよくわからないあだ名で呼んでくる。
そんなことよりも、“ねこ”とは何だろうか?
この世界に生まれてから、色々と学ぶべきことが多い。
きっと、その“ねこ”はまだ教わっていない何かなのだろう。
「なぁ、それどういう意味だ?」
「ヴェーシから教えてもらったんだ、猫って生き物の名前らしい」
生き物。
俺たち以外にも生が存在するみたいだった。
ヴェーシは何でも知っていて、たまにやって来ては外の世界のことなど教えてくれる。
「それと俺の関係性は…?」
「猫ってのは、お前みたいに少しつり目で瞳が大きく、気紛れで愛想を振りまいて、我儘な気分屋のお姫様みたいなんだってさ」
「…喧嘩売ってるのか?」
「まさか」
にやっと笑ったがジョークのつもりだとすぐに理解した。
こいつは何時もそう…ふんわりとした目線で何を捉えているのか、何を考えているのか丸で掴めない“雲”と言う物体の様だ。
一緒にいると、俺の気持ちが何処か可笑しくなり調子が狂う。
「姫ってさ、」
言いかけて、言葉が止まった。
そのまま時も止まったかと錯覚するくらいだった。
窓に映る雨だけは変わらずで、不思議な時が満ちる。
「――先にオレが消えたら、泣くの?」
俺たちは全てを理解した瞬間、消えてしまう種族らしい。
ついこの間、ニッツがきらきらと輝いて泡になってしまったのだ。
ニッツが消える時、俺の腕の中でずっと感謝の気持ちを彼なりに伝えていた。
最後の最後まで、大好きだよ、と泣きながら笑っていたのだ。
俺はニッツとずっと、くだらない話で笑っていられるんだろうな…なんて約束もしてないのに思っていて、あの時が忘れられないままずっと抜け殻の様に過ごしていた。
何で、俺たちには永遠が無いんだろう。
すぐ消えてしまう、雨粒のように弾けて無くなるような生き物なのか。
「俺は、あの時…泣いていたのか、もう、思い出したくないな」
「…意外と泣き虫だったんだな」
また、冗談なんだろう。
いつか消える。
リヤンだけじゃなく、俺自身も消える日が来るのだろう。
感情が、やがて鮮明に、名前まではっきりと理解する日には――
「消える前に言っておくが、俺はお前のことがキライだ」
「ははっ、そうか!さすがお姫さまの猫ちゃんだな」
目元から何かじわりと潤うもので溢れていた。
リヤンはそっと手を差し伸べて、俺の目元を優しく触れてまた冗談を言った。
「オレは、姫に愛を感じているよ、」
You are a cute kitten
‐泣き顔すら愛しい‐
(ニッツ君ごめんな…)
(リヤンは隙あらばニヒを奪いたい)